特別講演会 10月6日(日)午後

『歯周治療の中での矯正を考える』

人口ボリュームが大きい、いわゆる団塊の世代のグループが、今引退の時を迎えている。程度の差はあるだろうが、歯科の分野でのこのグループの最大の問題は歯周病である。さらに、矯正との関わりでは感染のコントロールが終了した口腔内で歯周組織の破壊と共に、病的に移動してしまった歯をいかに取り扱うかが大きなテーマとなっている。
昔は「年を重ねれば入れ歯になるのは当たり前」であり、入れ歯は年寄りのアイコンとも言えた。抵抗感はあっても「しょうがない」と受け入れる人々も多かっただろう。しかし現在豊かな社会を生きてきて、老後を迎えたこの世代の要求は
@できるだけ自分の歯を保存したい、
A入れ歯にしたくない(固定式装置にしたい)、
という2 点に集約される。患者側にあるこのようなニーズを高い次元で実現するために、歯周病患者に対応した矯正の実践は有効な手段であると言える。

この種の矯正は部分矯正ではあるが、残存歯を全て動的治療の対象にすることも多い。一見すると歯周病のない成長発育期の全顎矯正治療と同じように見えるかもしれないが、その治療目標や移動様式は大きく異なっていることが多い。歯周病患者に適用されるこのような矯正は部分矯正の範疇ではあるが、移動対象歯が多数になりやすいため、筆者は「多数歯のLOT(limited orthodontic treatment)」と呼んでいる。新しい世代のニーズに対して、今のところ供給サイドとしての歯科医はエビデンスに基づいた歯周病のコントロールとインプラントによる欠損補綴という手段で対応している。しかし、両者を調和させて治療の品質向上に貢献できる「多数歯のLOT」については、矯正専門医も歯周病専門医も十分な対応が出来ているとは言い難い。これからの時代、現場で欠かせない分野の一つとしての視点から、歯周病治療の中での矯正治療を特に「多数歯のLOT」を中心に解説していきたい。

加治 初彦先生

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