3つのペーパーはシリーズでSingle flap approach (SFA)という低侵襲な歯間隣接部に好発する垂直性骨欠損に対する歯周組織再生療法の際のフラップデザインについて言及している。特に審美エリアの歯間隣接面直下の垂直性骨欠損に対して歯周組織再生療法は有効であるが、歯間乳頭をフラップ手術すれば、術後の治癒において開裂する率は高いことはコンセンサスとしてある。
SFAは唇側・頬側にのみ歯肉溝切開と歯間乳頭部の骨縁上に連続した水平切開を入れてマイクロサージェリー用の剥離子で唇側・頬側のフラップと組織を損ねないように歯間乳頭を舌側・口蓋側に剥離する。舌側・口蓋側のフラップは剥離しないでデブライドメンドを行い、骨移植とGTRやEMDなどの再生療法を施し、内側のマットレス縫合とクロージングスーチャーをテンションフリーで行うというもの。

SFAに対する疑問点は、これだけ小さなフラップデザインで再生療法の基本のデブライドメントが可能で、良好な歯周組織再生が得られるのか?ということだと思う。それに対する回答として臨床研究の統計結果を述べてくれている。
2009年はSFAの術式についての詳細を、2010年はSFAによるHA骨移植とコラーゲン吸収性膜GTRのコンビネーション治療とSFAのみによるopen flap debridementとの臨床成績の比較を、2012年では従来よりの唇(頬)舌側ともにフラップを開くsimple papillae preservation (DFA)との比較を統計学的に信頼性の高いrandomized controlled study (RCT)で調べている。
いずれのデータも特筆すべきであるのは、いわゆる『開裂した歯間乳頭』をほとんど起こしていないことで、これは血液供給についてよく考えられたフラップデザインのみならず、RCTとはいえ研究チームのデリケートな手術スキルの高さを物語っている。
とりわけHAの骨移植と吸収性コラーゲンメンブレンを組み合わせたGTRにおいてコンスタントに歯間乳頭を失わないのは技量の高さとフラップデザインの目論見が成功しているということを示している。
この論文を読む前に気になったのはこれだけ小さなフラップデザインでデブライドメントが十分に可能なのか?ということだった。しかし、シリーズ3篇と自分の臨床で実施してみて問題なく可能であることを確認している。
このテクニックは汎用性が非常に高く、前歯審美エリアとくに上顎において垂直性の骨欠損は隣接面に集中している。再生療法の手法として筆者個人はGTRではなくEMD+骨移植、あるいはPDGF+骨移植という手法を好んで用いており、良好な結果を安定して得ている。

注意点は隣接面の幅が2mm程度以上の歯根間距離の症例を選ぶことと、必ず視野の拡大下で手術を行い、いわゆるマイクロサージェリー用として市販されている小型のスカルペル、剥離子、6-0程度のモノフィラメントの縫合糸を正確に用いることだと思う。手術そのものは習熟した術者であればコンベンショナルな手法とかわらないチェアタイムで可能である。